よもやま話とあれやこれ

どうでもいい話がたくさんできたらいいなぁ〜、と思っています!

没ネタ供養「私的なんかいい話」

 人のなんかいい話が好きだ。この「なんかいい」の定義が難しいのだが、じわじわとした余韻があって、人間の人間らしいところがみられる話が、おそらく私基準の「なんかいい」なのだと思う。せっかくブログでもやっているのだし、自分の中でいいな〜と思ったものについてはそのうち文章でまとめてみるかな…と思って1.2年前にちまちまと書いてみたのだけど、ある時友人に「なんかいい話聞いて~」と、当時とっておきのなんかいい話を披露した際、「あなたのなんかいい話は誰かしらが酷い目にあいがちで全然ほっこりしない。」と指摘された。そうかもしれない。というか、確かに「なんかいい」って言われたらほっこり話を想像する人もいるだろう。オモロ波長のチューニングがされていない状態でこれらを「なんかいい話」として提供されたら不愉快になる人もいるだろうし、そもそも人の話だとプライバシー問題だってあるよな…となってボツとした次第である。

 この度久々にその時の下書きを発見したので見返してみると、既に書きあげていた2編は、祖母の話と匿名SNSで一度だけ会話したお姉さんのお話だった。という訳で、せっかく書いてたしもったいないから……という理由で眠っていた下書きを数年越しに公開してみる。なんかいいな、と思ってくれた人には今度飴ちゃんとかあげるね。

 

「署内で静かに燃え上がっていたってわけですよ…」

 ひとり暮らしは気楽だけど、時折寂しさのビッグウェーブがやってくる。いつもはやり過ごせる寂しさが妙に沁みるそんな折に、ひと月ちょい程、見知らぬ相手と音声通話ができる匿名SNSを家事の片手間にやっていた。

 その日の通話相手は私より少し年嵩のお姉さんで、話題は会社の人間関係だったと思う。ひと通りお互いの話をした後に「そういえば、消防士の元カレから聞いた話なんですけど〜」と話してくれたのが、「消防署の署長とそこに派遣でやってくる掃除のおばさん(未亡人)の不倫話」であった。署内公認の事実だったらしい。なんかインモラルでえっちですよね〜とふふふっと笑いながら話してくれた後に「恋の炎は署内で静かに燃え上がっていたってわけですよ…」と締めてくれた。

 それから生活が少しづつ忙しくなり、寂しさビッグウェーブも収まったため、そのSNSアプリは消してしまった。あの日お話ししたお姉さんもインモラル消防署にお勤めの元カレさんも元気でやっているといいな、と思う。

 

「鳩……鳩はダメよ……」

 母方の祖母は北陸の生まれである。彼女の生家は地元では有名な商家で、祖母はいわゆるお嬢様であった。ただ、現在の祖母は節約を尊ぶどこにでもいる一般人である。いかにして彼女とそのきょうだいたちが一般人になったのかというと、彼女の父(私から見て曾祖父)が原因であった。

 うまい儲け話はどの時代でもあるもので、祖母が子供だった当時は鳩がアツかったそうだ。レース鳩人気なのかと当たりをつけて調べたところ、どうやらそれだけでもないらしい。数少ない当時の記録を見た感じでは、レース鳩だけではなく鳩を飼育すること自体が当時の流行だったようだ。なんだその流行。

 さて、祖母は商家の家系であったが、曽祖父はその家に生まれたにしては人が良すぎる性格であったという。周りに言われるがままに流行商売に手を出し、鳩を買ってしまった。競技用だったのか愛玩用だったのかは不明だ。当時の祖母の記憶は「なんだかよくわからないけど突然家に真っ白で綺麗な鳩がやってきたなぁ」というものだそうで、鳩を持ってきた曽祖父はただニコニコと微笑んでいただけだったというから、祖母の家で鳩の存在理由についてわかっている人間は多分誰もいなかったんだろう。

 とにもかくにも鳩を購入してしまった曽祖父だが、移り変わりが激しい流行の世界で、人が良いだけの素人が成果を出せるだろうか。否だ。鳩商売の結果は散々で、大損をした曾祖父は持っていた資産や土地を少なくない程度売却することになった。そうして祖母とそのきょうだいたちは庶民としての人生を生きることになったのである。

 そして、今でも祖母のきょうだいたちが地元で集まるたびに「あそこも、あそこも、ぜーんぶ昔はうちの土地だったのにねぇ。」「田んぼも、工場も、全部売った。」「鳩……鳩はダメよ……。」と昔を偲んではそれぞれため息をつくという。鳩が原因で傾いた家というのもこの世には存在する。