よもやま話とあれやこれ

どうでもいい話がたくさんできたらいいなぁ〜、と思っています!

読書感情文『死なれちゃったあとで』

 「あ〜よかったな〜」と読後に思う本はいっぱいあるけど、久々に「あ〜よかったな〜」に加えて、「感想を聞いてくれ!そして君も読んでくれ!」な本に出会ったのでお話しさせてください。『死なれちゃったあとで』という本です。個人で出されてる本なので、BOOTHで購入するのが一番手っ取り早く手に取れる方法だと思います。

 タイトル見てもうわかると思うんだけど、この本のテーマは「死」。作者の身近で起こった死にまつわる出来事のあれこれや考えが綴られたノンフィクションです。ちょっとしんどい内容もあるかもしれないけれど、読後は全然暗くなることはなく、カラッとした気持ちよさと少し寂しさの風が吹く感じでした。


 この本について何よりいいなぁと思ったのは、亡くなった人の死に方や生前のスタンスについて、正しい/間違っているといった態度がずっとなかったこと。『死なれちゃったあとで』の中で一番最初のお話は「針中野の占い師」という友人の自殺にまつわるもので、大学時代の友人Dが自殺で亡くなったらしい、という連絡を作者が受けたところから話が始まります。

 生前のDはこういう人間で自分とはこういう思い出があって、という話の後に、自殺の報を受けた時自分がどう思ったか、その後の通夜とお葬式で出会った人たちとのあれこれ……という流れで話が進んだところで気がついたけど、友人が死を選んだことへの意見とかあの時ああしていれば……みたいな過去への後悔の描写がほとんどない。タイトルの通り「死なれちゃったあと」に残された人たちは何を考え、何をしたのか、これはそういう本なんだ……。

 そこから全編通して読んでみると「死は生きていく中で発生する現象で、その現象自体に良い悪いの性格はない」みたいな捉え方を作者の方はされているのかなという印象を受けました。特に自殺という形で死を選んだ人について語るのってすごく難しいと思うんだけど、自殺した人間を美化するでもなくこき下ろすでもなく、自殺でもなんでも死は等しく死として扱っているところに、作者の信念や覚悟みたいなものを感じます。「針中野の占い師」は後日談の「種子島へ」と併せて読むと、人生の面白さとか人間の強さをみることができて最高になれますので何卒。

 

 あとは、事故で亡くなった作者の父についてのお話「父の死、フィーチャリング金」もすごくよかった。まずタイトルが良すぎるし、父の葬式準備のエピソードもじんわりと良い。

葬儀屋と打ち合わせ。思考力が低下していることを見越して、たとえば棺だと「A:50万円 B:30万円 C:10万円」のように選ぶようになっている(p.29)

Cが見るからに安っぽいので、結局は「Bでいいか」となる。Bを選んだことで「普通の価格帯を選んだ」とつい思ってしまいそうになるが、もちろんそれは錯覚で、Bも十分高いのである。全てをBで選ぶと、かなりの金額になってしまう(なった)。(p.30) 

 これ最高だ。生活の中に当たり前に存在する死というか、死で商売するってそういうことだよな……というものが見えてよかった。特別なことではあるけれど、死って日常の中でありふれていることでもあるんだよな〜。このエピソードは、死とは切っても切り離せないお金にまつわるもので、金額の大小は気持ちの大小と決してイコールではないんだけど、それでもその金額で人との関係性が見えてしまう、というちょっぴりの切なさと学びを得られる話。

 「死」がテーマの文章って当然どうしても重たく暗くなりがちなんだけど、淡々とした語り口があってか本作はサラッと読めるのがすごい。さらに一つ一つのエピソードに発見や共感があるし、何より読み終わった後に誰かに話したくなる一冊だった。

 

 幼い頃は「死」というのはとても遠い概念で、ものすごく歳をとったおじいちゃんやおばあちゃんにしか関係ないことだと思っていたけれど、それなりに歳をとってみてわかったのは、人は結構突然死んでしまうということだ。病気だったり、事故だったり、自殺だったり。大人になるとそういった突然の死に対応しないといけない時がどうしても発生してしまう。

 私自身も社会人になってからそんなときがあった。先週まで普通にやりとりしていた人が突然いなくなるというのはショックだった。けれど毎日は忙しく、さらに亡くなった後に残された案件の対応で奔走するため、落ちつきどころを見つける前に、モヤモヤとした感情の塊のままその時の自分の気持ちは日々の忙しさに飲み込まれてしまった。あれからしばらく経った今、ふとあの時整理できなかった気持ちのことを思い出したのは絶対に『死なれちゃったあとで』の影響だ。この本を誰かに話したくなるのって、読者それぞれに忘れられない死にまつわる思い出や当時は整理できなかった気持ちがあるからなのかもしれない。


 以上、とてもいいお買い物をしましたというご報告と長々とした感想文でした。秋の夜長にぜひ。

 

booth.pm